動物実験に対する倫理観の違い

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とある日の公園。圧倒される白鳥の多さ。


このブログを読んでくれている大学院以前の友人のなかには、私がどんなことをしているか知らない人もいると思うので、簡単に説明したいと思います。

 

大学院では、マウスを使って脳の発生の研究をしていました。具体的には、遺伝子、タンパク質が脳の形成や維持にどんなはたらきをしているか、遺伝子組み換えマウスをつくり育てて、観察したい時期の脳をとりだし、切片をつくってタンパク質の量の変化を計測したり、脳を構成する細胞の割合を算出したりしていました。

 

個人的な広義の目標は、ヒトの脳を理解したいというところにあります。ですがもちろんヒトでは侵襲的な実験はできないのと経験や環境によるバックグラウンドがあまりにも大きいので、マウスの脳をつかって生物に共通しうるベーシックな機構を解明することを目標にしています。

 

個人の倫理観としては、ヒトを理解しよりよい医療に繋げるために、マウスなど動物を使用した実験はなくてはならないと思っています。

 

 

ですが。

イギリスにきて違う考え方もあるのだと、ようやく認識しました。。

というのもイギリスは動物愛護発祥のお国。動物実験を行う前に数々の講義と試験を受け、免許状がないと動物を扱えません。3日間におよぶ9-17時の講義で、まず動物倫理、法律、齧歯類の基本的習性、苦痛やストレスを与えない取り扱い方(麻酔含む)等について徹底的に教え込まれます。

動物もヒトと同じ生命、動物にも生きる権利やヒトに生命を脅かされない権利はあるという倫理観が尊重されています。また、ストレスを与えず、幸せなライフをマウスに送ってもらうための数多くの方法が実践されていました。

 

日本での制度だと、

まず動物実験に関する事前の講義はe-leaningでさくっと(記憶違いかもしれないですが、1時間もかからず?)終わり、ライセンス制ではないので実技試験もなく、注射等の方法も研究室の上司から教わるだけでした。(もし教える人が薬学医学出身でなければ、注射針の扱いもぞんざいな可能性あり。)

あとマウスを隣のケージに移し替えるときにはしっぽをつまんで運んでました。

 

一方イギリスでは、

講習後、3時間におよぶペーパーテストがあり、70%以上を取らないと合格できません。(私は1回落ちました、笑)

他にも、マウス保定、縫合、腹腔注射と麻酔の実技講習とテストがあり(まだ途中でこれから他にも数個受けると思います)、特別なライセンスを持つ指導員監視のもとしっかり評価されます。たぶん実技下手だと、マウスに苦痛を与えることになると解釈され合格させてもらえないかも。

 

マウスに対するwelfareとして驚いたのは、

ケージにかならず回し車と隠れる場所があり、マウスが退屈せず安心して暮らせる環境になっていること。

体重を週に1回各マウスごとにはかり、減少/増加がないか観察すること(ストレスや痛み、病気をはやくみつけるため)。

しっぽを掴んで運ぶのは厳禁で(ストレスがかかる)、手のひらですくうようにして運ぶこと。

ストレスのかかること(保定の練習で触ったなど)を終えた後にはご褒美で普段の餌とちがうおやつ(ひまわりの種?)をあげること。

注射針は1回刺しただけで先端が曲がり、その状態で刺すと痛みを生じさせるため、2回目以降の使用は絶対しないこと。

などなど、書ききれません。

 

また、マウスに対する処置(手術)や、搬入された日、sacrificeした日を1匹ごとに全て記録として残し、国に提出する義務があるようです。日本では、実験に使用されている動物の数はおそらくあいまいなのですが、イギリスは正確に算出しています。

 

 

ちなみに地味に感動したのは…実験中に使うマスクです。

私の以前いた大学では、マウス実験では普通の不織布マスクを使用していて、マウスの毛、ふけ等を長期に渡り吸いこんだため動物アレルギーを発症した人を何人か知っているのですが、

こちらでは結構高価そうなディスポーザブルのマスクを使用します。マスクフィットテストも講習として受けるのですが刺激臭のある物質さえブロックできる極めて高性能なマスクです。私も将来マウスアレルギーにならないか心配していたのですが、イギリスでは安心して実験できそうです。

 

 

紹介したい内容が多すぎてとりとめもない記事になってきました。

日本→イギリスにくると、動物実験をするためのライセンス取得にハードルがありますが、西洋の倫理観と、マウスに対するリスペクトや慈愛を学ぶことで、これまでより大切に実験しなければと思うようになりました。